1.はじめに
私たちの体は、さまざまな栄養素のバランスによって健康を維持しています。特にビタミンは、皮膚や粘膜の健康を保ち、免疫機能を維持するために不可欠な役割を果たしています。しかし、ビタミンが不足すると、肌のターンオーバーが乱れ、感染症のリスクが高まります。性感染症(STI)や関連する疾患においても、ビタミン不足が症状の悪化や回復の遅延を引き起こす可能性があります。本コラムでは、日本性感染症学会専門医であり、銀座に性病専門のクリニックを開業しています私が、ビタミン不足と性病の関係について詳しく解説していきます。
2.ビタミン不足が皮膚・粘膜に与える影響
皮膚や粘膜は、外部の細菌やウイルスの侵入を防ぐ重要なバリア機能を持っています。このバリア機能が正常に働いていれば、感染症への抵抗力が高まります。しかし、ビタミンが不足すると、ターンオーバー(皮膚や粘膜の新陳代謝)が乱れ、炎症や感染症が悪化しやすくなります。
ビタミンC:シナール®
ビタミンCは、抗酸化作用があり、コラーゲンの生成を促進する(傷を治しやすくする)ことで皮膚や粘膜の健康を維持します。不足すると、傷の治癒が遅れ、炎症が長引くことがあります。例えば、陰茎包皮炎や陰部潰瘍が発生した際、ビタミンCが不足していると治癒が遅れる可能性があります。また、免疫機能の低下により、細菌性膣症やカンジダ症などの性感染症にかかりやすくなるリスクもあります。
ビタミンE:ユベラ®
ビタミンEは、強い抗酸化作用を持ち、血行を促進しながら皮膚の修復を助けます。血流が悪くなると、性器周辺の皮膚や粘膜の修復が遅れ、炎症や潰瘍の悪化につながる可能性があります。特に、ヘルペスや梅毒による潰瘍の治癒を促すためには、十分なビタミンEの摂取が重要です。
ビタミンB6:ピドキサール®
ビタミンB6は、皮膚や粘膜の健康を維持し、免疫機能を高める働きがあります。不足すると、肌荒れや炎症が起こりやすくなり、陰茎包皮炎や細菌性膣症、カンジダ症などの症状が重くなりやすくなります。特に、免疫力が低下すると、**コンジローマ(尖圭コンジローマ)**などのウイルス感染症に対する防御力が低下することも考えられます。
L-システイン:ハイチオール®
L-システインは、皮膚のターンオーバーを正常化し、メラニンの生成を抑える働きを持つアミノ酸の一種です。ビタミンCとともに摂取することで、皮膚の健康を維持しやすくなります。特に、性感染症によって皮膚の炎症や潰瘍が生じた場合、L-システインの摂取が回復を助ける可能性があります。
トラネキサム酸:トランサミン®
トラネキサム酸は、抗炎症作用や止血作用を持ち、皮膚の炎症を抑える効果があります。これにより、性感染症による炎症が悪化するのを防ぎ、治癒を促進することが期待されます。特に、ヘルペスやコンジローマ治療による医原性潰瘍など、炎症が伴う疾患において、トラネキサム酸の摂取が症状の軽減に役立つかもしれません。
3.性感染症とビタミン不足の関係
陰茎包皮炎
陰茎包皮炎は、陰茎の包皮部分に炎症が起こる疾患で、細菌や真菌が原因となります。抗真菌薬、抗生物質、ステロイドなどの軟膏と共に、ビタミン剤が処方される事があります。
ビタミン不足により皮膚の防御機能が低下すると、細菌が繁殖しやすくなり、炎症が長引くことがあります。特に、ビタミンCやビタミンEが不足すると、炎症が悪化しやすくなります。
細菌性膣症
細菌性膣症は、膣内の細菌バランスが崩れ、有害な細菌が増殖することで発症します。抗生物質の膣錠と共にビタミンが処方される事があります。
ビタミンCやビタミンEが不足すると、膣の酸性度が低下し、細菌が繁殖しやすくなります。
カンジダ症
カンジダ症は、カンジダ菌が異常繁殖することで発症します。免疫力が低下すると、カンジダ菌が過剰に増えやすくなり、かゆみや炎症がひどくなることがあります。抗真菌薬の膣錠、軟膏、内服薬と共にビタミン剤が処方される事があります。
ビタミンCやビタミンE、L-システインの摂取が皮膚の回復を助ける可能性があります。
梅毒
梅毒は、トレポネーマ・パリダムという細菌による性感染症で、陰部潰瘍が初期症状として現れます。ビタミンCやビタミンEが不足すると、潰瘍の治癒が遅れ、感染が広がる可能性があります。
コンジローマ(尖圭コンジローマ)治療による副作用
ヒトパピローマウイルス(HPV)によって発症する尖圭コンジローマは、陰部にイボ状の病変を形成します。液体窒素による凍結療法やベセルナクリームによる治療では、イボの減少・消失を目的としますが、薬の効果が強すぎて副作用として陰部潰瘍を来してしまう事があります。そのような潰瘍を医原性潰瘍(いげんせいかいよう)と言います。その場合、L-システインやビタミンCの摂取により皮膚の回復を助け、トラネキサム酸やビタミンB6の摂取により抗炎症、免疫賦活化作用により、事態の悪化を防ぐことができるかもしれません。
ヘルペス
ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)による感染症で、水疱や潰瘍が発生します。抗ウイルス薬の内服や軟膏の他、初発で広範囲かつ重度の炎症・潰瘍がある場合には抗生物質・ビタミン剤、再発で軽度の炎症、潰瘍の場合にはビタミン剤が処方される事があります。
ビタミンEやビタミンCが不足すると、病変の治癒が遅れたり、再発のリスクが高まります。
陰部潰瘍
陰部潰瘍は、ヘルペスや梅毒などの性感染症の症状として現れることがあります。ビタミンCやビタミンEの不足は、潰瘍の回復を遅らせ、感染の広がりを助長する可能性があります。
4.まとめ
ビタミン不足は、皮膚や粘膜の健康を損ない、性感染症のリスクを高めるだけでなく、症状の悪化や回復の遅延を引き起こす可能性があります。特に、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB6、L-システイン、トラネキサム酸などの摂取を意識することで、性病の予防や回復をサポートできる可能性があります。健康な体を維持するために、バランスの取れた食事を心がけましょう。
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記事監修
院長 剣木憲文(けんのき のりふみ)
医師、医学博士
日本性感染症学会認定医
銀座ヒカリクリニック院長-
メディア(取材)
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