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2024.11.17

【最新論文解釈あり】ドキシペップとは|淋菌、クラミジア、梅毒の予防薬|専門医監修|東京・性病検査|銀座ヒカリクリニック

1はじめに

ドキシペップはまだまだ新しい性病の予防概念であり、多くの問題議論の途中にありますが、現在、世界で蔓延している「梅毒」や「クラミジア」を食い止める希望の光になりうると私たちは考えています。

世界や日本における「梅毒」「クラミジア」の猛威とは

  • 梅毒:2022年、米国では1950年以来、日本では今の数え方になった1999年以降でともに過去最高の発生数になっています。(2024/11/17現在)
  • クラミジア:世界、日本で共に一番多い性感染症とされています。

議論の途中にある問題点については、最後に述べるとして、まずは、なぜこの予防法が希望の光になるのか? 結論を申し上げます。

ドキシペップが希望の光になる理由と可能性

  • ドキシペップを正しく実行すると、87%の梅毒、88%のクラミジアが予防できる可能性がある。

私たちが開院した2019年、既に梅毒発生数は増加しつつあり、それ以降未だに梅毒の収束は認められません。そして2022年に本邦でもステルイズ注射が発売され、治療が簡便になったことで通院が苦手な患者さんでも1回の治療で完治する事が多くなりました。しかし、それでもまだ国内で梅毒の猛威は治まっていないというのが事実です。

今日はドキシペップについて詳しく見ていきましょう。このサイトを見れば、ドキシペップの全てが見られます。

2ドキシペップとは?

Doxy PEP(ドキシペップ)とは、性行為後72時間以内にドキシサイクリンという抗生物質を200㎎服用することで、淋菌、クラミジア、梅毒が70-90%程度予防できるという、暴露後予防の方法です。

2-1ドキシ(サイクリン)とは

ドキシペップのドキシとは、ドキシサイクリンの事で、抗生剤のビブラマイシンの一般名です。ビブラマイシンはテトラサイクリン系の抗生剤で、古くからある安全な薬で性病への効果は抜群です。淋菌、クラミジア、梅毒それぞれの第一選択薬ではありませんが、それぞれに効果があります。他、予防薬としてのエビデンスはありませんが、マイコプラズマやウレアプラズマにも治療薬として用いられる薬でもあります。

 

ビブラマイシンが効果のある性病の原因菌

  • 予防効果がかなりある80-90%:梅毒、クラミジア
  • 予防効果があるかもしれない50-70%:淋菌(淋病、淋菌感染症)
  • 予防効果は不明だが、治療薬として使用される:マイコプラズマ・ウレアプラズマ
  • 効果なし:性器ヘルペス、HIV、コンジローマ、B,C型肝炎、トリコモナス、赤痢アメーバ、カンジダ、白癬、ケジラミ

2-2ペップ(暴露後予防)とは

ペップ(PEP)といのは曝露後予防(post exposure prophylaxis)の略語です。この場合の「暴露」とは性行為の事を指します。ばい菌の感染の予防を考える時、性行為前に性病予防する例は、「コンドーム」や「ワクチン」などがあります。性行為後に予防するものとして、今回ドキシペップが画期的アイデアとされているわけです。

暴露前予防 暴露後予防

コンドーム

ワクチン

 

ドキシペップ

3有名論文の紹介

3-1フラ5ス、米国の論文が有名

2018年フランス発、有名雑誌LANCETに掲載された論文と、2023年米国発、こちらも有名雑誌のニューイングランドジャーナルオブメディスンに掲載された論文です。以下、論文の要約をします。

2018年 フランス 2023年 米国

目的:ドキシペップが性病の発生率を低下させることができるかどうかを評価する。
方法:男性同性愛でHIV予防を行っている18歳以上の男性に対して、非盲検ランダム化試験。参加者は性行為後24時間以内にドキシサイクリン200㎎を単回経口投与する群と予防を行わない群にランダムに割り当てた(1:1)。
結果:232名の参加者(PEP群116名、非PEP群116名)に8.7か月追跡調査をした。
新たな性感染症を発症したのは、PEP群では28名、非PEP群では45名であった。
初回性感染症発生率はPEP群では非PEP群より有意に低かった。梅毒・クラミジアも同様であったが、淋病に関しては有意差はなかった。
胃腸系の有害事象はPEP群で53%、非PEP群で41%であった。
結論:ドキシペップは男性同性愛者の高リスク男性における細菌性性感染症の初回発症を減少させた。

背景:男性同性愛者における性感染症を減らすための介入が必要である。
方法:男性同性愛でHIV予防を行っている群とHIV感染者の男性同性愛者およびトランスジェンダー女性で過去一年間に淋菌、クラミジア、梅毒に感染歴のある人を対象にして、非盲検ランダム化試験を実施した。
参加者はコンドームなしの性行為後72時間以内にドキシサイクリン200㎎を服用する群と、ドキシペップをせず標準治療を受ける群に、2;1の割合で無作為に割り当てられた。性感染症検査は四半期ごとに実施され、評価項目は追跡調査四半期当たり少なくとも一つの性感染症発生率とした。
結果:参加者は501名(HIV予防327名、HIV陽性者174名)。HIV予防の集団では、淋菌、クラミジア、梅毒の相対リスクはそれぞれ0.45、0.13、0.12であった(すなわち、淋菌、クラミジア、梅毒の予防率はそれぞれ55%、87%、88%)。グレード3の有害事象は5件認めたが、重篤ではなかった。テトラサイクリン耐性淋菌はドキシペップ群では13名中5名であり、標準治療群では16名中2名であった。
結論:ドキシペップでは、標準治療よりも淋菌、クラミジア、梅毒の複合発生率が3分の2低下した。これは細菌性性感染症に最近罹患した男性同性愛の方におけるドキシペップを支持する結果であった。

3-2対象

上記の論文では、男性同性愛者またはトランスジェンダー女性、かつ過去1年間に淋菌、クラミジア、梅毒にり患したことがある、かつコンドームなしの性行為をする、HIV予防をしているまたはHIV陽性の人などが対象とされています。

ここで、「自分はこの集団に当てはまらないから大丈夫だ」と思ってはいけません。梅毒ももともとは男性同性愛者に多かったのですが、2010年以降の爆発的な蔓延により、今や女性や異性間での性行為をする男性にも広がっています。
私たちのクリニックでは、下記の方々がよくドキシペップの処方を受けにいらっしゃいます。この方たちはよく梅毒やクラミジア、淋病を発症する患者さんたちのプロフィールと一致します。

ドキシペップを求める人たち

  • 男性同性愛者の人
  • 不特定多数の人と性行為をする人
  • コンドームを使用しない人
  • 糖尿病の人、または糖尿病の薬を使用している人
  • 自己免疫疾患(例えばアトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、膠原病など)を有し、免疫抑制剤を使用している人
  • 仕事で性行為をする人、風俗嬢、女性用風俗キャスト、AV男優・AV女優
  • 風俗、女性用風俗を利用する人
  • パパ活、立ちんぼをする人、利用する人
  • SNSでセックスパートナーを探す人

3-3服用方法

不安な性行為から72時間以内にビブラマイシンという抗生剤を2錠(200㎎)服用します。

3-4細菌性性感染症とは

細菌性性感染症とは、梅毒、淋菌、クラミジアを指します。年間に世界で3億7,400万人が感染していると推定されています。

3-5ドキシペップの予防効果

各種菌によって予防効果(予防できる確率)は以下となります。

予防確率

梅毒 87%
淋菌 55%
クラミジア 88%

これらを総合して、全体的に66%の細菌性性感染症を予防できます。

3-6効果を高める方法

なんといっても服薬順守がとても重要です。こんな論文も発表されています。

ケニアのシスジェンダー女性を対象とする論文

  • ドキシペップをした女性群は、していない女性群と比較して、有意に性感染症予防ができてはいなかった。
  • 女性たちの80%程度が薬を服用していたと報告したが、毛髪から検出されるドキシサイクリン濃度によると29%しか得られず、44%の人が服用していなかった可能性があるという結論であった

つまり効果がなかった理由は、服薬順守が守れていなかったから、という可能性が示唆されるという報告です。

3-7副作用

論文では、肝障害(血液検査にて判明)が1件、下痢3件、頭痛が2件いたと報告されています。ドキシペップをした人のうち2%が我慢できない副作用または希望により投薬を中止しました。

3-8抗菌薬耐性について

通常の診療では、細菌性の感染については、感染を確認してから抗生剤を処方します。その理由は予測を立てて、むやみに抗生剤を処方してしまうと、耐性菌が増えてしまうためです。先行論文ではその点について、以下の様に言及しています。

「淋菌の耐性菌が増加した/黄色ブドウ球菌の耐性菌が増加した」

果たして、この問題は無視して良いのでしょうか。予防効果もあるため、極めて難しい判断です。コラムの最後の方に、私たちの意見を言及しています。

4注意事項

ご使用される本人以外の方の分の処方は致しておりませんのでご注意願います。
お薬内服上の注意点は以下です。

ドキシペップを服用する際の注意点

  • オーラルセックス、膣セックス、アナルセックス後72時間以内に、なるべく早めに服用して下さい。
  • 食後に、240mlの水と共に服用して下さい。それにより吐き気、胃のむかつきなどの副作用を軽減できます。
  • 乳製品、制酸剤、鉄分、カルシウム、マグネシウムを含むサプリメントは同時に摂取しないようにしてください。

*風俗で働かれる方には割引制度があります。詳しくはこちらをご覧ください。

5ご予約方法

当日のご予約はお電話でお願い致します。
明日以降のご予約はWEB予約をご利用願います。

①対面診療の場合

ご来院後に診察券アプリの登録、WEB問診を行い、医師の診察の後、その場でお薬が手渡されます。

②オンライン診療

オンライン診療でもドキシペップの処方ができます。

スマホでHPをご覧いただいている方は上方右から2つ目のバナーからオンライン診療のご案内がございます。

6ドキシペップの料金

当院では処方希望のある方に下記の料金で、ドキシペップの処方をしております。

回数 価格

1回分

¥2,750

5回分

¥7,700

10回分

¥11,000

7ドキシペップ後の性病検査の必要性

ドキシペップはあくまで一次予防です。二次予防として3か月ごとの性病検査をお勧めしております。

8よくある質問

8-1ドキシペップを服用すれば、必ず性感染症を予防できますか

淋菌では50-60%程度、梅毒・クラミジアは90%近い予防効果ですが、100%必ず予防できるわけではありません。

8-2ドキシペップはいつまでに服用すれば効果がありますか

不安な性行為から72時間以内に服用すれば効果が見込めます。

8-3ドキシペップを服用した後は性感染症の検査は必要ですか

必ず必要です。1-3か月ごとの性病検査をお勧めします。

8-4HIVや性器ヘルペス、尖圭コンジローマにも効きますか?

残念ながらできません。HIV、ヘルペス、コンジローマの原因菌はウイルスであり、最近ではないためです。ドキシペップは前述の通り、細菌性性感染症に効果が期待できます。

  • 9さらに深く考察してみる

①ドキシペップの問題点

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。最後にドキシペップの問題点について少し触れておきます。なぜ、最後にしたかというと性感染症の治療や予防の考え方は常に医学と社会学、倫理などの多方面からの思考が求められます。ドキシペップは、社会学的な観点から言えばとても優秀な予防法だと信じて疑わないのですが、ことに医学的な観点から言えばまだまだ議論の余地があると言わざるを得ません。

ドキシペップのまだ解決できていない問題点

  • 論文の被検者は男性同性愛者、トランスジェンダー女性に限定されており、それ以外の集団での再現性が不明である。
  • 淋菌に対する効果は地域によってはそれほど高く見込めない。
  • 耐性淋菌の出現率は地域によってまちまちであり、耐性淋菌の多いところでは、ドキシペップによる淋菌予防の効果は期待できない(地域特異性がある点が問題)
  • 淋菌発生の減少や黄色ブドウ球菌などによる院内発生は減少する一方で、それらの耐性菌が増加してしまう事。
  • 長期の報告がない事

このような点がクリアになって、初めて社会的にも医学的にも十分なエビデンスの構築がなされたと言われるのです。いずれにせよ、梅毒やクラミジアの蔓延を食い止めるのが私たちの大きなテーマです。米国CDCは2024年6月に細菌性性感染症予防のためのドキシペップを推奨しました。世界で一番ドキシペップの進んでいる都市サンフランシスコではドキシペップが導入された2022年10月以降、論文に同じく梅毒とクラミジアの症例が急速に減少しましたが、淋病の減少はほとんどなかったようです。私たちはどのようにこの結果について考えていけば良いのでしょうか。引き続きこの問題はフォローしてまいりましょう。

②改めてメリットデメリットのまとめ

改めてドキシペップのメリット、デメリットをまとめてみましょう。

メリット デメリット

暴露後予防ができる。

梅毒、クラミジアが90%近く予防できる。

ドキシサイクリンに耐性のない淋菌に関しては予防効果が得られる可能性がある。

性病のマイコプラズマにも予防効果が期待できるかもしれない(剣木意見)

淋菌が予防できないかもしれない。

淋菌や黄色ブドウ球菌などの耐性菌が広がる可能性がある。

男性同性愛、トランスジェンダー女性以外の集団に効果があるのか不明。

③そもそも「予防的抗生剤の服用」というのはどうなのか。

歴史的には戦後、抗生剤の普及によりこれまで不治の病であった、多くの細菌性感染症が治るようになりました。80年代、90年代になってくるとなんでも抗生剤を処方する時代になり、特に風邪に対する抗生剤の漫然投与が問題となりました。

「風邪の90%はウイルス感染だから抗生剤はいらない」

2000年代頃より、風邪と抗生剤の考え方が改められ、感染症に対する考え方も大幅に変更されてきて、「厳密に細菌を見付けた場合に、それに効果的な抗生剤を行きましょう。熱があるからと言って、細菌感染も確認しないままとりあえず抗生剤を行くというのはやめましょう」という風潮になりました。
そしてまた今、「菌を確認する前に、粘膜接触があれば抗生剤を予防的に投与しましょう」という時代に入ってきています。時代によって抗生剤の扱い方、常識も本当に目まぐるしく変わってきているのです。

④抗生剤予防投与の歴史と今のドキシペップの立ち位置とは

抗生剤の予防投与に関しては調べるに、以下のように歴史があるようでした。

性感染症予防の歴史

①第一次世界大戦中(1914年(大正3年)- 1918年(大正7年))および直後、フランスの性労働者を訪問したパリの軍隊兵士は性器を塩化銀溶液に浸した。これにより推定2571件の淋病、軟性下疳、梅毒が予防された

②1940年代には暴露前後の予防法として、スルファチアゾール(サルファ剤の一種)を投与された兵士の淋病、軟性下疳の発生率が大幅に減少した。

ペニシリン予防法が米国艦隊で広く使用された。

④1970年代 長時間作用するミノサイクリンが米国海軍艦艇の乗組員に淋病予防のために提供された。その後、淋菌は耐性を獲得し、その結果細菌性性感染症に対する抗菌薬予防法の見通しに対する熱意が薄れた

➄2010年半ばにHIVに対する予防のための高レトロウイルス両方、暴露前予防の利用が成功し、再び予防への関心が高まった。

⑥そして今回ドキシペップが開発された。

このような歴史の中で現在、ドキシペップが開発されているのです。

10ノリ先生の意見

最後に私の意見について述べてみようと思います。私たちは毎日多くの梅毒、クラミジアで困る患者さんを診察しています。一方で淋菌が飲み薬で治らなかったり、点滴を何度もしてやっと治るような難しい淋病の患者さんもいらっしゃいます。

私の意見としては、「抗生剤予防投与の答えというものはない」と思います。その上に立って、私が思うのは、情勢によってガイドラインを変えていくのも一つの答えなのではないかと思います。現在、梅毒・クラミジアなどの問題は本当に大きな問題になってきています。先天梅毒による死産や後遺症が残る方、クラミジアで子宮や肝臓が癒着してしまう方など、本当に重症化している人たちが増えているのが現状です。そのような中で、ひとまずドキシペップのような新しい知恵を用いた予防法を広めていき、患者さんの数が減少してきたら、バランスを取って耐性菌が増えないようにまたドキシペップを抑えてという事を政治や行政の判断でやっていくことが大切なのではないかと考えています。引き続きこの問題に関してはフォローアップをしていきましょう。

【参考文献】
1.2018年フランスの論文 Molina JM, Charreau I, Chidiac C, et al. Post-exposure prophylaxis with doxycycline to prevent sexually transmitted infections in men who have sex with men: an open-label randomised substudy of the ANRS IPERGAY trial. Lancet Infect Dis. 2018;18(3):308-317.
2.2023年米国の論文 Luetkemeyer AF, Donnell D, Dombrowski JC, et al. Postexposure Doxycycline to Prevent Bacterial Sexually Transmitted Infections. N Engl J Med. 2023;388(14):1296-1306.
Potential impact of doxycycline post-exposure prophylaxis prescribing strategies on incidence of bacterial sexually transmitted infections.
3.2023年ケニアの論文 Stewart, Jenell, et al. “Doxycycline prophylaxis to prevent sexually transmitted infections in women.” New England Journal of Medicine 389.25 (2023): 2331-2340. 女性ではドキシペップは良い結果をもたらさなかった。→自己申告では%の人が薬を飲んだと答えているが、毛髪試験をしてみると29%しか飲んでいなかっただろうと推測された。
4.CDCは細菌性性感染症予防のためのドキシペップを推奨。 https://www.cdc.gov/sti/hcp/doxy-pep/index.html 
5.doxyPEPに関する異論:最-近のガイドラインはより慎重になっている https://www.aidsmap.com/news/apr-2024/dissent-doxypep-recent-guidelines-becoming-more-cautious
6.性感染症剤予防の歴史 Cannon, Chase A., and Connie L. Celum. “Doxycycline postexposure prophylaxis for prevention of sexually transmitted infections.” Topics in Antiviral Medicine 31.5 (2023): 566.

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